こんにちは、仲町歯科医院 副院長の義永昌也です。
ひと昔前までは、「痛くなったら歯医者に行く」というのが一般的でしたが、最近は「悪くならないように歯科医院に通っている」という患者さんが増えてきています。これは、お口の健康の意識が上がっている証拠であり、公衆衛生・健康の増進を目標とする私たち歯科医師にとって嬉しい変化です。
(実際、令和4年歯科疾患実態調査によると、過去1年間で歯科検診を受けた人の割合は全体の58%にのぼり、増加傾向とのことです。参考として、予防歯科で有名な国スウェーデンでは歯周病予防のために定期的に歯科医院に通院する人が9割以上いるそうです。)
歯科医院に通うことが健康維持に関わるというのは良く知られていますが、「歯のクリーニングだけで歯周病やむし歯の予防」はできるのでしょうか?
結論を言うと、歯科医院に通ってクリーニングを受けるだけでは十分な予防にはなりません。しかしながら実際に「なんで歯科医院に定期的に通っているのに、むし歯や歯周病になるんだ?」と疑問を持たれる方も少なくありません。このような誤解を解くため、さらに詳しくまとめていきたいと思います。
歯科に定期的に通っている方の多くが3ヶ月に1回程度だと思います。仮に1時間、毎回欠かさずに歯のクリーニングを受けたとしましょう。
セルフケア(自分自身による歯みがき)とプロによるケア(衛生士によるPMTCなど)の割合を図にしています。自分自身で管理する時間が圧倒的に大きく、プロによる日数や時間は1%以下と極めてわずかなのが分かると思います。
プロによるケアよりも、毎日のセルフケアがとても大事なのです。
じゃあ歯科医院に行く意味はないのでは?と上記の図を見ると感じるかもしれません。何のために歯科医院に通うのでしょうか?
理由としてはいくつか挙げることができます。
- むし歯や歯周病に なぜなるのかを知れる
(原因と対策方法が分かる) - 磨けていない場所を確認し、磨き方の練習ができる
(日頃の歯みがきが上手になる) - 歯みがきでは取れない歯石を取ってもらえる
(歯石取り:スケーリング など) - むし歯や歯周病、その他異常がないかのチェック
(疾患の早期発見)
このうち、
○磨けていない場所の確認・磨き方の練習
(日頃の歯みがきが上手になる)
は、当院で特に大事にしているポイントです。
これは自分の口なのですが、念入りに歯みがきをした後の写真です。
一見するとキレイに磨かれている歯であり、どこが磨けていないか分かりにくいと思います。しかし、歯垢(プラーク)だけを染める特殊な染色液を作用させると下の写真のようになります。
歯垢が残っている箇所(磨けていない部分)がはっきりと視覚的に分かる状態になっています。
この染め出す処置は、「衛生士が汚れを取りやすいように、色を付けてる」と誤解される方も居られるようですが、そうではありません。「磨けていない場所を見やすい状態でお伝えし、患者さん自身の歯みがきで取れるように練習する」ためにしています。
1つの歯を4ブロックに分けて「歯が磨けていない箇所がどの程度あるか」を割合(%)で表しており、“PCR(プラーク・コントロールレコード)”と呼んでいます。
理想の数値は0%であり、歯周病をはじめとした歯科疾患を予防していくためには、目安としてPCRが20%以下が必要です。
「歯磨き指導は必要ないから、クリーニングだけして下さい」と希望の患者さんも稀にいらっしゃいますが、クリーニングだけでは十分な予防には繋がりません。
日頃の歯みがきが重要だということが伝わりましたでしょうか。
当院では基本的に3ヶ月に1回程度の頻度で染め出しをおこない、歯みがきの具合をチェックしています。ご自身のPCRは何パーセントなのか確認してみて下さい。
参考文献
・歯周病治療におけるメインテナンスケアの意義:The significance of maintenance care in the treatment of periodontal disease (P. Axelsson, J. Lindhe, 1981)
・成人の歯周病予防のための専門的な機械的プラーク除去:Professional mechanical plaque removal for prevention of periodontal diseases in adults – systematic review update (Ian Needleman, Luigi Nibali, Anna Di Iorio, 2014)
・歯周病の予防と治療(e-ヘルスネット)